トラベルクリニック海外赴任者センター:企業の人事総務ご担当者様向けに海外派遣者に対する健康診断について解説。

海外派遣者への健康診断

1989年の労働安全衛生法改正により、海外へ派遣前後の健康診断が事業者に義務付けられております。
この法律で規定されている健康診断の対象者は、海外に6ヶ月以上派遣される労働者で、派遣形態が駐在と出張にかかわらず、事業者は健康診断を実施する必要があります。実施期間は海外派遣前と海外派遣後に1回ずつであり、一時帰国時の健康診断は除くとなっています。尚、6ヶ月以内に雇用時健診や定期健診を行っている場合は、同一の検査項目を省略することができます。

健康診断の目的

【派遣前の健康診断の目的】

  1. 定期健康診断の代わりとして
    労働安全衛生法は事業者に対して、国内で働く労働者を対象に年に1回の健康診断を行うよう義務づけており、海外で働く労働者は含まれていません。その代わりに、海外に派遣する前後に健康診断と同様の項目を検査しておくことが「海外派遣労働者健康診断」の目的となります。
  2. 職場環境に勤務する者への配慮
    海外という特殊な生活環境では健康を害する因子が数多く存在します。健康問題を未然に防ぎ、早期発見・早期治療をすることが健康診断の大切な目的となります。

【派遣後の健康診断の目的】

  1. 派遣中に疾患した疾病の早期発見を目的とします。対象となる疾病には生活習慣病及び感染症も含まれます。

1.健康診断の内容

労働安全衛生法における定期健康診断の項目に加え、医師が必要と判断した場合には追加検査が可能です。一般的には上部消化管検査、腹部超音波検査、感染症に関する抗体検査(B型肝炎やC型肝炎)、血液型検査、便検査(便潜血反応検査や虫卵検査)などを追加検査として行っています。海外では日本のような医療を受診できない可能性もありますので、できるだけ人間ドックレベルの健康新を受けておくとよいでしょう。

労働安全衛生法では、海外へ勤務する本人のみとしていますが、帯同される大人の家族も同様の健康診断を受けるようにしましょう。小児の場合は、かかりつけ医に相談しておくとよいです。

「労働安全衛生法第四十五条の二」による海外派遣労働者の健康診断

  • 既往歴及び業務歴の調査
  • 自覚症状及び他覚症状の有無
  • 身長、体重、腹囲、視力、聴力の検査
  • 胸部エックス線検査及び喀痰検査
  • 血圧検査
  • 貧血検査
  • 肝機能検査
  • 血中脂質検査
  • 血糖検査
  • 尿検査
  • 心電図検査

<医師が必要と判断した時に実施する項目>

  1. 腹部画像検査(胃部エックス線検査、腹部超音波検査)
  2. 血中の尿酸の量の検査
  3. B型肝炎ウイルス抗体検査
  4. ABO式およびRh式の血液型検査(派遣前)
  5. 糞便塗抹検査(帰国時)

海外勤務者健康診断をご参照下さい。

2.就労ビザ取得に必要な健康診断

国によっては就労ビザ取得に際し特殊な検査を要する場合があります。
例えば、ロシアの非エイズ検査診断書やスペインビザはどの医療機関で受けてもよいですが、中国の外国人体格検査記録(検査項目にHIV抗体検査、梅毒血清反応検査、肝炎ウイルス検査の感染症検査が含まれている)は国立病院などの指定医療機関でしか実施できません。詳細は各国の大使館にお問い合わせ下さい。

3.健康診断は1ヶ月以上前に受診

海外派遣の内定が出てから出国までの期間が短いことが多いですが、健康診断の結果で要精密検査や要治療となった方にはフォローアップが必要です。検査や治療はできるだけ国内で行い、重篤な場合には出国を遅らせたり、派遣の中止も検討して下さい。こうした事態を避けるため、健康診断は出国の1ヶ月前には行い、結果は1週間くらいで受け取ることが望ましいです。また、英文による健康診断結果も持参すると現地での受診時にも役立ちます。

4.赴任前健康診断のフォローアップ

要経過観察となった方への対応

派遣前の健康診断にて生活習慣病が発見され、経過観察を要するケースは少なくありません。ほとんどの場合は赴任中の生活指導を行う必要がありますが、生活環境が違いますので、国内の指導内容と同じではなく派遣国に応じた配慮をするようにしましょう。

  • 経過観察
    経過観察の方法は、現疾患により様々ですが、体重測定や血圧測定など日頃から自宅でも検査できるものは測定する習慣をつけるよう指導しましょう。検査による経過観察が必要な場合は、現地の医療機関を受診させ、社内の産業保健担当者がE-メールなどで定期的に経過を確認するなどの対応をするとよいです。
  • 栄養指導
    海外生活を送る上で問題になりやすいのが「食事」です。外食が多くなりがちですが、できるだけ自炊を勧め和食を食べるよう指導したり、ストレスによる暴食を防ぐために、自分なりのストレス発散方法を見つけることも重要になってきます。
  • 運動指導
    日本では自宅から駅までのウォーキングなどを勧めることが多いですが、滞在する国の環境に応じた指導が必要となります。海外では気候・治安などの問題により、気軽に外を歩けず家と会社の間は車移動のみに制限されるケースもあります。そのような場合は、家の中で行うストレッチや筋肉トレーニングなどを指導しましょう。スポーツクラブやスイミングプールなどの施設がある地域では、積極的にそういった施設を利用するような指導をしましょう。

要精査となった方への対応

出来るだけ国内で検査を受けるように対応しましょう。 時間的に国内での検査が難しい場合は、現地の医療機関を紹介し、そこで検査を受けることになります。ただし、滞在先の国で適切な検査を受けるのが難しい場合は、出国自体を延期することも検討して下さい。

一般的に先進国の医療機関であれば、日本と同等レベルの検査・医療を受けることが可能です。海外の多くでは現地の家庭医(Family Doctor)を通して、必要に応じて専門医を紹介してもらう方法が一般的です。一方、一部の途上国では、日本と同等レベルの検査・医療を受けることが難しいことも想定されます。日本人の受診する医療機関が限られる国や地域もありますので、事前に医療機関の情報を確認した上で、現地での検査の可否を判断します。紹介状は英文であればほとんどの場合は対応可能です。

要治療となった方への対応

派遣前健康診断の結果によっては、生活習慣病のために、ただちに薬物療法を開始する必要があるケースもあります。そうした中には派遣不可となることもあるため、健康診断の結果も派遣者選任材料の一つとする必要があります。

原則的には滞在先の医療機関で治療を受けることを勧めます。どの医療機関を受診するかは要精査の方が現地で検査を受ける場合と同様のプロセスです。

日本で投与されている薬剤が滞在国でも入手可能か否かについては、日本の販売元に問い合わせて下さい。 病状が安定している方に日本から遠隔的な治療を行う際は、数ヶ月毎に帰国させ診療を受けることが前提となります。また、主治医がE-メールなどで定期的に経過を観察し、現地で病状が悪化する事態に備えて英文の診断書を携帯させましょう。

5.英文の健康診断の結果も携帯

赴任前健康診断の結果は、重要な医療情報となります。結果を英文にしておくことで滞在国での医療機関受診時に役立ちます。特に、生活習慣病や持病をお持ちの方が派遣されると、日本で受けていた治療を中断しやすいため、英文の診断結果を持参させるように勧めましょう。受診可能な医療機関も合わせて提供すると安心です。

6.派遣中の健康診断

労働安全衛生法では、国内の事業所で働く労働者について、事業者が毎年1回、定期健康診断を実施することを義務付けていますが、海外の事業所に働く労働者にはこの法律が適応されません。しかし、海外派遣労働者への安全配慮という観点から、派遣元となる事業者が年1回は定期健康診断と同様の検査を実施するとよいです。日本に一時帰国させて検査するのが理想ですが、近年は海外でも日本と同様の健康診断を提供する医療機関が増えてきていますので、上手に活用するとよいでしょう。ただし、海外で受けた健康診断の結果については、社内の産業保健担当者が評価や指導を行える体制を構築することが必要です。一時帰国の際に健康診断を受ける場合は、再検査や精密検査が必要になる可能性も考慮に入れるため、帰国早々に健康診断を受けるようにしましょう。

7.海外出張者にも注意

羽田空港の国際線ターミナルのオープンなど海外へ行く交通機関の発達や人件費の問題から海外派遣を短期出張に切り替えて対応する企業が増えてるようです。頻繁な海外出張をする社員は、食生活の不規則や飲酒量の増加による生活習慣病の罹患や悪化へと導くケースが少なくありません。

また、出張前や後の事後処理などで多忙となり、過重労働を招くこともあります。海外出張が頻繁な社員については、社内産業保健担当者が定期的に健康指導を行い、深夜勤務などと同様に、定期健康診断を年2回にするなどの対応も検討します。

海外出張でも1回の出張期間が6ヶ月を超える者には「海外派遣労働者健康診断」を受ける対象となります。

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